余命宣告

 もし余命宣告をされたら誰に話すだろう?まず両親か。一番言いにくい人たちだよな。両親。どうしようもないことだとしても、不孝者であることに変わりはない。こんな報告はしたくなかった。

 親に伝えれば、姉には言わずに済むかな。自分の口から言うのはちょっと気が引ける。姉とは不仲ではないが、そこまで親しくもない。改まって伝えるのは照れくさいというか、なんだか違和感がある。こんなときに照れてる場合じゃないけどね。それでも上手く話せる気がしないな。

 次は誰だ?もういないか。独身で恋人もいない男なんてそのものだ。友達も数えるほどしかいない。さすがに友達に言わないのは気が引けるが、言うとしたらどのように切り出せばいいのか。いつもみたいに軽い口調で言うと思うが、相手は困るだろうな。

 高校の友人ならKにだけ伝えようか。でもKがクラスメイトに伝えるか。大学の友人Tに伝えても、学科の人たちに伝わるだろうな。

 「今さら何を思われてもいい」と、そんな風に割り切れるものなのか?多分できない。俺は常に人の目を気にしているし、人からどう思われるかに敏感だ。伝えたら伝えたで、「誰がお見舞いに来てくれるのか」と皮算用しそうで嫌だ。「あの人は来てくれない」とか考えたくないよ。みんな忙しいだろうからそうそう来れないだろうし。最期の最期まで人間関係に疲れてしまう。

 結局、誰にも言わないという選択肢を考えてしまう。こういうところ、自分勝手だなと思う。どう考えても言った方がいいに決まってるのに。

 病室にノートパソコンを持ち込んだ。自宅にあるものを思い出しながら、処分してほしいもの、売れそうなもの、中身を見ないでほしいものをExcelに入力している。とりあえずリストを作っているが、分別作業を誰にやらせるつもりなのか?一時的に退院できたら自分でやろう。そうじゃなければ、誰にもやらせられないな。遺品整理の業者に丸投げした方がよさそうだ。

 預金や資産は今のうちに家族に渡して、残りは全て処分してもらおう。抽斗の奥には大学生のときの、元カノと映ったプリクラがある。誰にも見られることなく処分されることを願う。

 ブログはどうする?ブログの存在は誰にも伝えていない。これが一番恥ずかしい。今のうちに削除しておくか。

 ミニマリストを目指していたが、意外と物がたくさんあることに気付く。そういえば前回引っ越しをしたときも、荷物の多さにイライラしていたっけ。あの世には何も持っていけないよ。

 

 

※当記事はフィクションです※