二次試験の前日【大学受験】

今から10年以上前の話。

2/24 試験前日

 県外の大学を受験するため特急電車に乗った。翌日の試験は9時開始のため前日入りだ。同じ方面の大学を受験するクラスメイトがいたので、同じ電車で行くことに。一人で旅行なんてしたことなかったから助かった。

 電車に揺られること数時間、目的地に到着した。クラスメイトは先の駅だったので俺が先に降りた。ここからは1人か。知らない街に1人で来るのは人生初。わくわくしてきたけど遊んでる場合ではない。駅から大学までの経路を確認し、大学へ向かう。合格を目指して勉強してきたが大学に来るのは初めてだった。目の前にはパンフレットで見た通りの校舎がある。ちょっと感動。

 下見が終わったら特にやることがない。事故や事件に遭う恐れがあるので、街をフラつくようなことはしない。ローソンで夕食を買ってビジネスホテルへと向かった。1人で外泊するのも初めてだ。ホテルで受験生らしき人を何人か見る。

 このホテル、センター試験前は予約がいっぱいだった。だがセンター試験後にキャンセルが出たため予約できた。キャンセルした人はセンター試験に成功してもっと上を目指したのか?それとも失敗して受験を諦めたのか?予約一つとっても色々と考えさせられる。

 部屋で先ほど買ったコンビニ飯を食べる。テレビはつけない。受験期間中は封印している。他にも漫画やゲームを禁止していた。部屋は静かだ。食事を終えてシャワーを浴びる。もうやることがない。勉強すれば?と思うかもしれないが、「試験前日に勉強すると不安になる」と学校の先生に教えられたのでそれを忠実に守った。持ってきたポータブルCDプレイヤーでアジカンを聴く。

 「緊張してる?それなりにね」

 前日にジタバタしたって仕方ない。お守り代わりに持ってきた参考書を枕元に置いて就寝。

2/25 試験当日

 ホテルをチェックアウトするときにキットカットとポストカードをもらった。"サクラサク"と。めちゃくちゃ嬉しくて誰かにメールしたかったけど、そんなことをしてる暇はない。大学へ向かう。

 どうやって大学まで行ったかはあまり覚えていないが、教室の様子はなんとなく覚えている。公立高校のボロい校舎しか知らない自分にとって大学の教室はめちゃくちゃきれいに見えた。エレベーターがあるし!

 将来のクラスメイトもこの場にいたはずだが、周りの人のことは全然気にならない。「みんな私服だ」というアホみたいな感想しかなかった。センター試験だって私服だったじゃないか。

 着席し試験開始。必死になって解いた。今までの知識を総動員した。部分点でもいい。1点でも多く取る。とにかく頭を使った。とにかく書いた。後悔だけはしたくない。この日のために勉強してきたんだよ。

 午前で試験は終了。けっこう手応えあったかも?何はともあれ、これで終わりだ。駅で帰りの特急券と昼食と漫画を買った。車内で昼食を食べながら漫画を読む。試験も終わったし漫画を解禁しちゃえ。

 「まだ受験は終わってないだろ?後期試験も申し込んだだろ?」

 そんなものは知らん。前期の結果発表から後期試験までは3日ぐらいあるから、そこで勉強すればいい。後期で受ける大学はセンター試験の配分が高いから二次試験はそこまで勉強しなくても何とかなる。と、自分の都合の良いように考える。

 家に着いたのは夕方。県外に行ったけどさすがにお土産は買わなかった。合格すればいつでも買えるさ。ゲームも解禁。一度クリアしたRPGをニューゲームで始めた。

合格発表まで

 一切勉強せず。CD買って漫画買って。今まで我慢してたことをやった。束の間の平和。久しぶりに観るテレビは面白かったけど、時間を無駄にしているような気分になった。勉強しないというのは変な感じだ。勉強せずにはいられない体になってしまっている。

 ピアスを開けた。もう完全に勉強する気ないじゃん。「高校生のうちにピアスをしたい」という自分なりの意志があったんだろう。それにしても気を抜き過ぎだ。いま思えば、なぜこんなに余裕かましてたんだろうと我ながら思う。

 3/1は卒業式。私立を受験した同級生は進路が決まってるから楽しそうだ。国公立組は落ち着かない。かと言って今さら何も出来ないから結果を待つしかない。みんなでワイワイしてるのに心の底から楽しめない。

3/7 合格発表

 合格発表は15時か16時だったと思う。現地には行かなかった。掲示板を見上げながら受験票と照らし合わせる、ドラマでよく見るあのシーンをやりたかったが県外の大学なのでそれは無理だ。親に頼めば行かせてくれたのかな?でも合否はネットで見れるし、合格発表のためだけに行かせてくれないよな。もし行ったとしても、落ちてたときが悲惨すぎる。

 ネットをつなぐ。合格していたよ。味気ない。嬉しいけど味気ない。現地に行って体育会系サークルに胴上げされたかった。

 父は会社のパソコンで合格発表を見てくれたらしく、おめでとうメールをくれた。母は「物件を探しに行かないと」と言っていた。一人暮らしの準備だ。早くしないといい物件はなくなってしまうらしい。

 この後のことはあまり覚えていない。いつ友達に合格の報告したんだろう?高校の先生にはどうやって伝えたんだろう?直接高校に行ったっけ?覚えてないな。

 それからはあっという間だった。物件も無事に決まり引っ越し準備を始める。俺よりも親の方が大変だっただろう。入学金の振込や引っ越し手続きなど。あのときは全く気にしていなかったが、本当に感謝だ。

 みんなの進路が決まってからは、高校生のくせにやたら飲み会が多かった。クラス、部活、体育祭のメンバー、仲良いグループなどなど。飲み会と言っても未成年なのでお酒は飲m(ゴニョゴニョ)。焼肉屋でわいわいとか、誰かの家でわいわいとかそんな感じ。受験勉強から解放された喜びが爆発していたのだろう。なんちゃって進学校のくせに。

 ここで俺の受験体験記は終わりだ。かなり鮮明に覚えていることに驚いた。ここに書かなかったこともある。まるで昨日のことのようだ。それは言い過ぎか?いや、俺の頭は壊れている。18歳から何も変わっていない。2022年の俺は18歳からタイムスリップしてきたのだ。